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雨のち愛

2008–06–09 (Mon) 23:52
テーマ=梅雨 ジャンル=シリアス・純愛



いっそのこと、殺してくれッ!!!
夢の中で俺はそう叫んだが夢はそれを無視しビジョンを流しつづける。
やめろッ!!やめろッ!!やめろーーーーーーーッ!
手に染み付く肉の感触。流れていく真紅の視界。ずたずたにされた心。
もうヤダ…やめて、くれ…ッ。
涙で前が見えない。悲しくて視界がぼやける。なのに俺はその光景から目を離せなかった。


目覚めたのは教室の一室。
静かな教室には、ひぐらしだけが鳴いていた。
ああ、そうかと現実と非現実を理解した。
未だに心はずたずただ。しかし正直に言うと、起きたのが天の救いだったと思った。
あのまま眠り続けていたら俺は…どうなっていただろう
――――――ッ!!!!
手にはまだ肉の感触が残っていた。両手に血に染めながら俺は人を殴りに殴り殺めた。そして、行き着いた先は死だった。全身が軽くなっていき寒気が襲いかかってきた。そうして視界がぼやけ感覚が少しずつ失われていった。そこから一気に思考は消えていき目に見えるものが何かわからなくなっていく。あんなに耳障りだったひぐらしの合唱もそこで最後を迎えていく。そして、最後には声を出すことも考えることも動くこともわからなくなり、消えゆく意識を受け入れ闇に墜ちていった。
人を殺めたことが赦されるかといわれたら赦されるわけがない。殺めた事実は変わるわけもない。だが根拠はそこではない。
あの夢で人を殺めたのなら、赦しは誰かしてもらうべきなのだろうか…。
本人に言ったってわかるわけはない。知るはずもない記憶を話し謝っても意味などない。だけど、この世界で生きている人に無性に会いたい。姿、声だけでもいいから会いたい。
昭和59年の夏に昭和58年の罪を償っても意味はないが何もしないよりも何かをしたい。
せめて、会えればそれでいい。
そう思ったあとの俺はすばやく立ち上がり鞄を持ち走っていた。
梅雨のこの季節、雲だけが雨を、ひぐらしだけが音楽を。




「はぁ~雨とはついてないな」
溜息をしながら外を眺めた。ちなみに今俺がいる場所はバス停だった。
帰り道の途中、魅音のことを詩音に教えてもらい
今日はバスで遠出してますと話していたのですぐさまバス停に向かった。しかしその途中に降られ制服や鞄はずぶ濡れだった。乾かしたいが傘がないしこの雨も当分止みそうにない。今になって、朝お袋に言われた通りに傘を持っておくべきだった後悔した。
でも、そんな後悔もこの待ち時間も今の俺にとって心地よかった。
不思議だ。俺、魅音に謝りたいからここに来たのに。それなのに機嫌が良かった。これから大切なことを話すというのにそんな重圧をまったく感じていない自分がそこにはいた。
殺めてしまったと後悔していたのに、今はそれが理由でここに来れたことがすごく嬉しかった。
そう言えば、あいつとは数週間ぶりだよな
ここ最近、魅音の通う学園ではテスト週間とかで魅音が学業に専念していたと聞いている。俺としてはそれがとてもいいことだと思うのと同時に悲しかった。
しかし今はこうして魅音と会うことが出来る
そう考えると自然と頬が緩んだ。
…っておいおい、何浮かれてるんだよ俺。
魅音と会うと考えるだけで自分は浮かれてしまっている。だけど今はそれが恥ずかしいなど感じず、逆に微笑ましかった。
たった数週間だけなのに寂しかった。あいつの顔を見れないことが苦だった。
仲間、として……だろうが、今はそうは考えたくない。むしろ一人の女の子として考えたい。
彼女を待つ彼氏みたいに…魅音を待ちたい。
…………ぁ、ああ。そう、だったのか
そんな例えをして自分の心が今やっと理解で来た。彼氏と彼女の関係を例えた時点で十分おかしく感じたがそれが嬉しかった。だから今は胸を張って言える。
俺は魅音が好きだったんだ。
それを理解した瞬間、あまりに感動してしまって涙を流した。
ああ…ああッ。これが好きって気持ちなんだ。
それはなんて素晴らしく…なんてデリケートなものだろう。
胸の中が温かさに包まれていくのと同時に、一気に不安が遅いかかる。そんなつり合わない双方が胸の中を支配していく。鈍感だったから気づかなかったが人のことを意識して考えるとこんなにも切ないんだと頭よりも心が理解した。
恋愛小説などで一途というのはこの気持ちなのだろう。甘酸っぱい一途な気持ちを俺は経験しているのだとわかって苦笑いを零してしまった。鈍感鈍感ってたくさんたくさん言われてきたが、今はその言葉がものすごく懐かしく感じてしまっている。
好きって気持ちはある意味凶器だ。こんなにも胸を痛めつけて気づかなかった頃のことを綺麗サッパリなくすなんて。
だけど、気づいた俺は胸にはモヤ、この待ち時間の間がものすごく長く感じるような錯覚に陥った。
しかし魅音に会えると思うごとに幸せで嬉しいと感じられた。



それからどれぐらいが経過しただろう。
雨が降ってしまっているせいで空は真っ黒な雲に覆われ辺りは薄暗い。生憎時計は持っていないので今何時かわからない。
「はぁ……虚しいな」
耳に聞こえるのは止まない雨音だけ。
視界に入るのは濡れた地面と水溜り。
バスもそろそろ着いていいだろうと思いながらそんな意味のない光景を見ていたとき。
「あれ…? 久しぶりだね」
何食わぬ顔してその人はやってきた。
「……魅音」
「何よ。幽霊を見たって顔してさ。いきなり私が現れたことがそんなに驚いた?」
「や…そう、言うわけじゃ」
「ふぅ~~ん。そうなんだ~」
バレバレの嘘だったことには俺も気づいていた。しかし咄嗟に出た言い訳に何も反論できず、俺は顔を隠すように横を向くしかなかった。
「くっくっく。相変わらず変わらないね~それだから部活で負けるんじゃん」
「う、うるさいな。人が一日で変われるかよ」
「いやねぇ、圭ちゃんも部活歴一年を経過してるんだから変わらないと死ぬまで負けの人生だよ。くっくっく」
俺の負けがそんなに面白いのか。
反論したくても出来ず図星であったため、俺は不機嫌にうるさいと魅音を睨みつけた。しかしそれには動じず魅音は当たり前のように俺の横に座った。
「っ!!!」
「何さぁ。そんなにおじさんのことを根に持ってるの」
「いやなんでもない…!!!なんでもないから怒らないでくれ」
慌てて頭が上手く回らない。我ながら情けない。
しかし不意打ちするかのように俺の横に座ったことには動揺を隠せなかった。
「??圭ちゃん顔真っ赤だよ。熱でもあるの?」
「いやない!!!ないから心配するな!!!」
心配そうな表情で顔を近づけてくる魅音は俺は慌てて距離を取った。そして肩を壁につけ顔を隠すように俯かせた。
「???変な圭ちゃん」
不思議そうな表情のまま魅音は元の場所に戻っていった。少しだけ残念に感じたが助かったと安心するほうが勝っていた。
「そ、そう言えばなんで魅音がここにいるんだよ」
「ふぇ…あ、それ…は」
気を紛らわすためだけの質問だった。しかし魅音には答えづらかった質問だったらしく歯切れが悪く、二人一緒に俯く状態になってしまった。
「…………………」
そんなこともあり、少しだけ冷静さを取り戻した俺はチラッと魅音を盗み見した。
……きっと気づいてしまったからだろう。
数週間ぶりに見ただけだというのに、印象は大きく変わっていた。
艶々した白い肌。サラサラの翡翠色の髪の毛。発育の良すぎるスタイル。
何から何までも今更気づいたことだった。一年過ごしてきたというのに、好きになって魅音がこんなに可愛くて、それを知らずに過ごしてきた自分に無性に腹がたった。
「…数週間ぶり…だね」
そんな俺とは裏腹に魅音は冷静に、そんなことを呟いた。
「…ああ。そうだな」
「…………」
しかし歯切れが悪い。言ったときは冷静だと思ったがどうやらそれは思い違いだった。
魅音もまだ調子が出ないみたいだ。でも……なんでだろう。
「……そう言えば、魅音の制服姿。初めて見るな」
「え…?…あ、うん。そうだったね」
「四月は家族で色々と忙しい仕事をこなしてたから魅音の制服のお披露目に立ち会えなかったな」
「そう、だったね。でも…これは夏服だから」
魅音はがっかりしたような表情で俯いた。一体何に対してがっかりしたのかわからないが、とりあえずこれが魅音の初制服姿だ。素直に感想を述べてやらないと。
「…似合ってるぞ」
「ふぇ…?」
「…魅音の制服姿、似合っててて…」
可愛いといおうと思ったが寸前で飲み込んでしまった。
いくらなんでもそれは無理。可愛いんだけど口に出すのはあまりに……恥ずかしい。
「似合っててて……何?」
しかし魅音はその続きが気になったみたいで俺に問い掛けてきた。
何かに期待するようなその目。視線が別の意味で痛いが、それ以上に心臓の高鳴りが気になってしょうがなかった。
「いや…それ、は……」
「圭ちゃん……言って」
ぁ、もう無理。こいつ、可愛すぎる。
「……そ、その、だな……えっと……か、かわ…ぃぃ…な、って」
「ふぇ………ぁ」
今の言葉には真っ赤になる。それは俺も魅音も同じことだった。
女の子に対して「可愛い」などと誉める言葉を言いなれていない俺。
男に「可愛い」なんて言葉を言われなれていないであろう魅音。
俺たちは似たもの同士、だと一瞬だけ思った。しかしその後に思ったのは。
「魅音は…学園でもてるタイプじゃないか?」
レナが昔言っていた言葉を思い出す。
『本当はとっても可愛い女の子なんだよ』
自分の想いに気づいてしまった今だからその言葉はそのままの意味だと理解できた。しかし、それは同時に学園に入った魅音がもてることも意味していた。
「な、なにさ…そんなにおじさんの恋が気になるの?」
「ああ。気になる」
即答だった。そう帰ってくるとわかっていた脳がすぐに反射し返したように思えた。
「それで、どうなんだ」
他者から見たらキスをしようとする彼氏に見えるかもしれないほど体を近づけ魅音の言葉を聞き逃さないように顔を近づけ耳に神経を集中させた。魅音は驚くすぶりを見せたが覚悟を決めたように雨降るバス停の外を見ながら重い口を開いた。
「園崎魅音って名前も学園では有名だったから入学してすぐに注目されたよ。そのせいかな。私のことが好きって付き合って欲しいって迫られるのもしばしばあるよ。…でも私はそのたびに断ってる」
「どうしてだよ…?」
なんとなく理由がわかるがそれとは違う別の意思が働いている気がして少し不安なりさらに追求した。
「だって………好きな人が…いるんだもん」
瞬間、白黒のモノクロ世界になった。
ああ。そうだよな。魅音だって…女の子だから。恋ぐらいするよな。
予測できたこと。しかし本人からの言葉は相当大きかった。だってそれは魅音が俺のことを好きじゃないって聞こえたから。
「そ、う……か」
なら、ここは喜ぶべきことじゃないだろうか。魅音に好きな男ができたことは仲間として祝福に値することだろう。
「…………圭ちゃん?」
よかったなって。頑張れよって。声ぐらいかけてやるべきじゃないだろうか。
そうするのが仲間として、惚れちまったやつとして…。
「………ねぇ、どうしたの?」
魅音のことを考えてやるのなら俺は引くのがいい。それがこいつの一番いい未来だと思うから。
「頑張れよ。魅音の恋は俺が応援するからな」
それが限界だった。それだけ言い残し魅音から逃げるように走り出した。




これでいいんだこれでいいんだこれでいいんだこれで、いいんだ!!!!!
頭の中で何度も何度も言い聞かせた。
いいんだ。魅音の幸せが俺の願いなんだ
走る。苦しいが走り続ける。
好きなら幸せになるのを願うべきだ。俺よりも彼女のことを優先すべきだ
胸が張り裂けそうだ。足がふら付いて倒れてしまいそうだ。
告白して魅音の意思を阻むのは絶対に…!
「は…はぁ、は……はぁはぁ」
自分に嘘をついて全ての意思を魅音に捧げる。だけど後悔はあった。
もっと早く気づけばよかった。そうすれば…そうすれば…っ!
「はぁ…は……はぁ…は、はぁ」
そんなものは言い訳に過ぎないとわかっている。だが不安があった。
走るたびに脳裏に浮かび上がるのは血塗られた光景。あそこにたどり着く経緯は知らないがあれは事実だと訴えかけてくる。
だから感じてしまう。あの出来事が近いうちに起こるのではないかと。それが現実になることがたまらなく怖かった。





「………あれ?」
気づいたら俺は家の玄関に座り込んでいた。そして今理性が復活した。
どうやってここに来たか。どうやってこんな場所にいるのか覚えていない。
しかし自分の体を見て気づく。ずぶ濡れになった身体からして雨の中を走ってきたのだろうと。
そして……自然と何があったか。記憶を辿っていき。
「……ああ。そうか」
バス停からここまで走ってきたらしい。靴には雨水が入り込み泥が靴を汚している。制服もずぶ濡れで中に着ている赤いTシャツが浮かび上がっていた。
「とりあえず、家に入るか」
雨は激しさを増す中、ここにいては風邪を引くと思い玄関のドアノブを回した。
「……あれ?」
が開かない。鍵がかかったままだった。
「って今日は留守だったな。えっと鍵は…っと」
いつも入れている後ろポケットに手を入れた。しかし。
「……あれ?」
いつも入れていたはずの鍵はなかった。
そうして別のポケットも探すが何も入ってなかった。
「って…今日は鞄に入れてたんだった」
今更になって鞄に入れたことを悔やんだ。
ちなみに今ここには鞄はない。どうやら鞄を持ってかえることをすっかり忘れてしまいバス停に置きっぱなしのようだ。
「はぁ…まったく。情けないの一言しかでないな」
しかも、その情けないのレベルが今日に限って郡を抜いて高い。
もう…全ての面でダメダメだった。
「仕方ない。弱くなるまで待つしかないか」
お袋の話だと、弱くなるのは6時以降。この天気だと暗くなってからだ。
生憎傘も持ち合わせていない俺は弱くなっても濡れながら鞄を取りに行くしかない。また無駄に溜息を漏らしそうだが飲み込んだ。無駄な力は使いたくなかったからだ。
雨脚は強いままだ。仕方なく俺はもう一度腰をおろし瞼を閉じた。
せめて、起きる頃には雨が止んでいることを祈りながら…。


「まぁ……しゃーねぇか」
しかしそんな祈りをあざ笑うかのように雨脚は悪くなる一方だった。
正直、溜息と一緒に皮肉な言葉が一緒のでそうだったが無駄なことなのでやめた。
そして深呼吸をして頬をパチンと叩き、さっきのように走った。
「は……っ、はぁ…はぁ」
しかし今度は意識がはっきりとしていた。
雨の冷たさに身体が冷えてくること。泥が顔に跳ねてくるくること。口の中に雨水が入ってくること。何も感じなかったさっきよりも今の方が全然辛い。
「あっ…はぁ……はっ…っ、はぁ」
唯一幸いしたことと言えば、荷物がないから速く走れたことぐらいだろうか。俺自身はそんなことを特と考えてはいなかったが。
だがそのせいなのだろう。気づいたら4分の1を走ってしまっていた。そう考えるとバス停までの距離がそう遠くは感じなかった。
「はぁ……はっ、ぁ………はぁ、は…っ」
しかし体力がもたない。
足が少しずつ重くなっていく。しかも、重くなったことで速度は落ち立ち眩みしそうになる。
それでも俺は走ることをやめようとは思わなかった。
肺が酸素を求めても、足が重くなっても、やめようとは思わなかった。
耳には俺の呼吸と雨音。そしてひぐらしのなき声だけが聞こえていた。
「はぁ…はぁ……は、っ……ぁ」
寒い。なのに、体が熱い。
風邪を引いたときと同じ感覚だ。風邪を引いたなと思いながらバス停を目指した。
「はぁ……っ………はっ、み…ぇ、た」
そんな不幸に気づきながらバス停を看板を見つけた。
その瞬間、どっと疲れが襲いかかってきた。しかしそれも当然と言えば当然の反動だ。往復で全力疾走なんだ。これで疲れないわけがない。だがここで休んだら風邪で倒れてしまいそうだったので、ふら付く足取りで小屋の中に入ろうとすると。
「――――――――――――――――――――――――――――――――は?」
そこにはありえない人物が。
「……あ。圭ちゃん」
元気のない挨拶をする彼女に反射的にようと返してしまった。
「ずぶ濡れだね。ほら、冷えるよ」
真っ白になった頭には魅音の言葉が通らない。身体が冷えたことより、風邪をひいてしまったことより、ここに魅音がいることに驚いた。
「どうしたのさ。ほら、早く」
ぼっとしていた俺の手を握り、自分の傍らに座らせた。その仕草に戸惑いがない。
しかし、それも当然か。
「なんで……」
思考はすべて目の前の疑問を解くことに集中していた。彼女がいること事態、おかしすぎる出来事でありありえるはずなどなかったことのはずなのに。彼女はここにいた。
「さぁ。…なんでだろうね」
自分でも不思議だというような表情で天井を仰いだ。俺の疑問は彼女の疑問でもあったみたいだ。だがそれは明らかに矛盾していた。自分がわけも分からずにこの場に残った。鞄を置いていったから帰ってくると確信していたとしてもこんな冷えているだから帰ろうと思うはずだ。帰ろうと思えば帰
れただろうし俺を待つことに何のメリットもないはずだ。
それに俺は魅音にギアスをかけていない。ならこの行動は自由。すなわち俺を待ちたかったから待ったと考えるに至る。…どこか引っかかっていた。
「風邪、引いちまうぞ。それに忙しい魅音は明日も何かあるんだろう。なら帰ればよかったのに」
まるで帰ってくれたほうがよかったというような口振り。予想だと"待っててあげたのに"と拗ねると思った。しかし魅音は"ははは、そのとおりだね"と笑い飛ばした。
「なんだそれ。笑い飛ばすことかよ。一応、お前だって女の子なんだし体を大切にしろよ」
「ははは……まあ、そうだね」
しかし一瞬にして暗い表情へと変わってしまった。
魅音は壁に背をもたれた。そして、小さなため息をして"馬鹿"なんて呟いた。
「何が"馬鹿"なんだ」
「圭ちゃんの……馬鹿」
拗ねたような口調。しかし同時に罪悪感も含まれているように感じられる不思議な声。
意味は点でわからないが、俺は魅音の機嫌を損ねてしまったみたいだ。
「なんだよいきなり。俺はなんにもしてないぞ」
「いいや、したね。ずっとずっと前からしてたね」
部活で負けた後にする会話みたいに話が続いていく。だが内容が内容であまり続くのもよくはないが。
「じゃあ、言ってみろよ。それで心当たりがあったら謝る」
「………鈍感」
それだけ言うと魅音は俺から顔を背けた。
しかし俺はその意味が理解できず"またそれか"と小さな溜息をついた。




それから数時間の間、黄昏ていた。外は闇に包まれ雨をとっくの昔に止んでいた。
なんだが俺たちは何も言わずに座り込んだままだった。
「「…………………」」
決して場が悪いわけではない。それにケンカをしているわけでもない。
なのに何も言わずただ時間だけが過ぎていた。
すると"ぎぎ"とぼろい音を立てながら魅音が体勢を立て直す。横でちらちら見ていた俺は"何かある"と思い様子をうかがった。
「……圭ちゃん」
「な、なん…―――って…!!!」
それはあまりにも突然なことで驚きも半端なものではなかった。
「なななななな、なんだよいきなり!!!寄りかかってきて」
「……………」
魅音は何も言わない。いや何も言う必要がないというように俺の腕に触れた。擦り何かを見つけるような触り方をする手の動きは俺という存在を認識しているように感じられた。なのだがその意図がまったくわからなかった。
「み、魅音どうしたんだよ。熱でもあるのか?」
「………………………」
「それとも疲れがたまって立ち眩みとか。まさか、寝てないよな」
「………………………」
「もしもし魅音。起きてるか~~~~。無視するな~~~~」
「………………………」
予想はしていたがやはり何も答えない。それを確かめられただけだというのに妙な違和感を覚えた。胸の中で何かが蠢くのだがそれは決して嫌なものではない。むしろそれは心地がいい。
不思議なことに"はは"と笑みが零れる。気味が悪いのだがそれが不思議だと思う元凶だった。
何浮かれてるんだろうな、俺
隣で好きだと自覚してしまった彼女がいるからなのだろうか。それとも二人でいるからだけだろうか。
「……………………魅音」
傍らにいる魅音の髪を静かに触れた。
柔らかくてサラサラとしている。手から離れるような儚さと流れるような繊細さ。
初めて触れた女の子の髪の毛は美しさと切なさを思わせる印象だ。
「んっ……」
消えてしまうような儚さ。今の声はそれを強くイメージさせた。
「……………何に、苦しんでるんだ」
それとうっすらだが苦しそうな想いが胸を締め付けた。
「………自分の不甲斐なさ」
今も続いているからこそそれに苦しんでいる。彼女はそんな自分が嫌いなんだろう。
彼女は泣いていた。涙を流してなんかいない。彼女にとって自分への涙はもう流し尽くしてしまったのだろう。確信ではないのだが直感だけでそう感じた。
「……………て」
「え……?」
魅音は慰めて欲しいと強請るように俺に抱きついてきた。その時の魅音は…とても弱々しく消えてしまうというよりも消える寸前の姿をしていた。ガラスのように壊れてしまいそうな身体。繊細で儚い髪の毛。そして誰よりも弱く誰よりも歪みがある心。
"俺には……何ができるのだろう"と考える前に"わかっていた"と予測していた自分がいた。
「俺で……いいんなら」
優しく撫でた髪の毛はやはり儚かった。
降り止まない雨だけが俺たちを見ていた。




「……………」
「……………」
無言のまま俺たちは雨に打たれながら帰路を歩いていた。
「……………」
だが俺たちの手は離れまいと繋がりあっていた。
しかし俺はあることが計り知れないほどの恐怖を生み出していた。それは単純であ
まりにも簡単過ぎる現実の虚しさ。やろうと思えばすぐにでも出来てしまうことだ。
情けないことだが俺はそれにビクビクしながら歩いている。心臓が高鳴り血液が暴れまわり目眩を覚えてしまう。ドクンドクンと聴覚を遮り視界は歪むに歪む。
「………っ」
唇から鉄の味がする。皮はとうに剥がれ口の中が鉄に支配されている。もう何度目になるか分からないがそれを気持ち悪いとは思えない。むしろその味が精神の安定剤だった。
わかった、なんて答えを返したくせにその実、わかっていないのはこちらの方だ。あの言葉に嘘はない。嘘があったら俺は後悔していたしこんな気持ちになっていない。むしろ嘘をついたほうが全然マシだ。今の道はイバラなんてものよりもさらに尖っていて危険だ。
「……………………」
それでも俺は、この道を選んだ。破滅かもしれないって知っているのに。
まだ十代なのに俺はもう道を決めようとしている。時間はまだまだ腐るほどにあるというのに俺はこの道だけと胸に刻み込もうとしている。いや、消せないほど濃く色をつけて刻み込もうとしている。胸はもう刻んでいる。あとはもうそれはどれだけはっきりさせ、どれだけ目立つものにするかが問題だ。
「……………………」
俺はもう戻れない道に来ている。ここから先はどうなるかなんてわからない。
それでも…俺は―――。
「…痛いって。圭ちゃん…痛いよ」
「あっ……!」
その声で我に返った。
魅音は顔を歪めながら俺から手を振り解こうとしていた。それに俺は手を離し少し距離をおいた。
「「…………………………」」
息がシンクロする。お互いに顔を合わせ無言の会話をする。
「……もう…やめて」
悲痛な叫びが胸を締め付ける。
何を言いたいんだと俺は問うとしたがそれを飲みこみ真っ直ぐ魅音だけを視界に入れた。
「……苦しいなら離れていいから。わたしは大丈夫だから」
魅音の顔がよく見えない。
一体こいつはどんな顔をして俺のことを考え、俺のことを離そうとするのだろうか。
無駄な思考回路がゆっくりと回り始める。そんな回路は使わないはずなのにどうしてかその回路は少しずつ早くなっていく気がした。
「魅音……」
何を言うべきか頭に浮かばない。
何をしたらいいか体は命令しない。
何をしたいか定まらない。
自分の意志は元から定まっていない。ただ魅音が心配なだけで自分のことは蚊帳の外。そうだから回路は焼ききれるみたいに回りつづけ頭の中に意味のない記憶が浮かび上がってくる。それが邪魔で邪魔でしょうがない。
「圭ちゃん……無理しないで」
心配してくれる声はとても痛々しい棘みたいだ。
無理などしてはいない。無理をしてるのは魅音の方だろうって言ってやりたいが声が出ない。いや声を出そうとしていない自分がいた。
「ごめんね。わがままを言って困らせるべきじゃなかったね」
そう言って顔を上げる。
その顔は消えてしまうような笑顔。苦しそうな瞳。精一杯の気持ちを表現していた。
そこで何かが完璧に吹っ切れた。それも火山の大噴火並に大きく。
「あっ……」
消えてしまいそうな声。しかし耳から脳まで届くには有り余った力。
魅音の手を握り締めながら俺の胸に体を預けるように傾けさせた。
今なら魅音の気持ちがわかる気がする。こいつは仲間としてではなくて……。
「女の子を守るのは男の役目だ。困っているならなおさら助けてやらないと」
もう口にしなくてもわかる。思わなくても自然に理解できる。
「魅音は弱いんだから俺が守る。お前も考える園崎とか雛見沢とかそんな戒めからも開放してやる。魅音は俺が守る」
「圭ちゃん………」
答えは言わなくても出ている。
離さないと握り返してくる手。預けると俺に倒れ込んでくる体。温かい滴を零す表情。それだけで答えは出ていた。
冷たい6月の雨。冷たい滴が体を打ち付けていた。





静かな前原邸はどこか不気味だ。
テレビの音も聞こえなければ人が歩く足音さえも聞こえない。さらには明かりもなければ人気らしい人気もなく幽霊屋敷みたいだ。
そんな中、俺の部屋で俺と魅音は布団に潜っていた。
「…………魅音」
俺たちはお互い何も着ないで肌を見せ合っていた。ずぶ濡れになった制服を脱ぎ捨て俺は鍛えられていない体付きを魅音に見せてしまっているわけだが魅音もその発育の良すぎる体を俺に見せ付けてしまっていた。この状態なら二人の身体は頭から足まで見えるだろう。だが恥じらうようなことはなかった。
「…………隠すものは、ないね」
魅音の顔は明るさ半分暗さ半分といったところだ。しかし無理な笑みはまだ健在だった。
「ああ……だけどまだ言うことがある」
頬を撫でる。温かく柔らかかった。それだけでいつまでも触っていたくなるがそうもいかないだろう。
「魅音、俺は―――」
「圭ちゃん……」
魅音も俺と同じように頬を撫でた。しかしその手はとても冷たい。そして胸が締め付けられた。
「言っちゃダメだよ。圭ちゃんにはレナがいるでしょ?」
優しい瞳。だが悲しそうな色を隠していた。
レナと近い目なのだが魅音には感情を殺すことができていない。不器用ながらもめいっぱいに隠すその仕草に目頭が熱くなる。
「私は大丈夫だから。圭ちゃんは……」
魅音はそこで言葉を切った。だがそれでわかった。
やはり魅音は不器用でどうしようもないほど美しすぎたと。
「もういい。もう…いいからさ。それに守るんだから今更そんなこと言うなよ」
「……………だけど」
「……俺は魅音が好きだ。だから―――」
小さな手を優しく握り締める。もう離したくないとわがままをいうように。
「………何もかもを、背負っていく」
優しく握った手に指を絡めつかせる。"恋人繋ぎ"なんてガラなタイプじゃないが、今はそんなことを気にしてはいなかった。
「………好き。今はそれだけで」
最後までは言わない。もう俺の言葉など不要だ。
「……好き」
彼女の言葉だけが彼女を救う最後の救い。
誰も幸福になれる世界なんてないからこそ、俺は一秒でも長く彼女と幸せでなくてはいけない。
「キス……して」
それは彼女も同じだ。
"幸せ"と胸に刻み"好き"と繰り返す言葉だけが充実した時間を思い出に変えた。






これで22,3KBです。
ちなみにここから先は18禁。出来たら更新予定。
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感想

読みました。
幸せ と 好き の二つのつながりの中で、漂い、寄り添う圭一と魅音の偽りの無い心。
罪を胸に、悲しみを糧に、二人は言葉を心を重ねて、雨の中、一室で少し、踏み出す。

鉄さん
>お久しぶりです^^
試験が終わったまた試験というのは精神的に効きますね。それでもやるしかありませんがorz
鈍感過ぎる圭一と精一杯背伸びする魅音、ですか。うむ、精一杯する魅音は可愛いですから私もツボりますね^^

魅ぃさん
>ただ長くしシリアスなだけですよ^^:
元々はいちはちのために書いたものですが…なんでこんなに長く(泣)
終わりの余韻はこれだけでも十分満足できるように設定したからです。そうじゃないといちはち見れない人に不公平ですからぬぇ~。

影法師さん
>純愛のイメージでしたから。やはり迷いがないのが一番ですよ!
一室の余韻はこれからの繋ぎが強いです。でも最後まで純愛を忘れずに、もですね。

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中二病の同人大好きな変態。アニメよりゲーム派。
07th作品はうみねこよりもひぐらし。
いまだに圭魅が大好き主張は変わらず。
創作活動は別館で進行中。

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